義援金等による生活保護廃止問題についての私たちの見解
2012年2月23日 全国生活と健康を守る会連合会
(1)生活保護を受ける人が全国で208万人に達しました。しかし、生活保護基準以下の生活をしている人で、現に保護を受けている人は約15%にとどまっています。また、生活保護制度は、国民生活の最低保障水準(ナショナル・ミニマム)の土台をなす制度です。今日の貧困と格差が広がるもとで、生活保護制度が果たすべき役割がますます重要になっています。
私たちは、そうしたもとで、大災害の義援金や補償金などの収入認定による生活保護の停廃止を許さないために全国でたたかっています。1995年の阪神大震災では、義援金については「収入認定という扱いはしない」(95年3月30日、全生連との交渉で)と厚生省(当時)に回答させました。2004年の新潟県中越地震では、「自立更生計画」で300万円以上を収入認定させないなど、生活保護の廃止をくいとめてきました。
今回の東日本大震災では、義援金などの収入認定によって生活保護を廃止された世帯が1,443世帯(福島608世帯、宮城676世帯、岩手159世帯)にのぼっています。私たちは、各県や市町村との交渉など働きかけを強めるとともに、「自立更生に必要な額」を拡大させてきました。その結果、昨年12月21日、南相馬市の義援金等による保護廃止に対する会員3人の審査請求に対して、福島県知事は「違法」との裁決を出しました。宮城県知事は、今年3月5日、塩竈市における義援金、地震保険金による生活保護廃止と費用返還の処分を取り消す審査請求の裁決を行いました。
被災した上での保護廃止で、たちまち国保税(料)などの支払いへの心配も生まれ、廃止された人たちの心を深く傷つけています。私たちは、この問題についての以下の見解を発表するものです。
(2)大規模災害時での義援金などを生活保護でいう収入とみなして保護を廃止することはやめるべきです。
生活保護制度の目的は、生活保護法(以下、法)第1条の「健康で文化的な最低限度の生活」の保障と「自立の助長」をはかることです。厚生労働省も「被保護世帯に対する金銭給付の全てを収入として認定したのでは、法の目的である自立助長の観点から、あるいは社会通念上の観点から適当でない場合も出てくる」としています。国は、義援金、東京電力の賠償仮払金、災害弔慰金、被災者生活再建支援金、災害援護金などの貸付金を収入認定するとしています。これらは、それぞれの目的にそって支給・貸付がされるものです。生活保護を受けていることのみをもって、その目的が保障されないことがあってはなりません。
たとえば、東京電力の賠償仮払金は、原子力損害の賠償に関する法律によって、放射能や熱などによって生じた損害を賠償するものです。生活保護世帯だけがこの目的が保障されないのは、憲法第14条の「法の下の平等」に反します。精神的な損害に対する補償がされないのは、それらの人たちの人間の尊厳を傷つけるものです。だからこそ、国は、公害健康被害の補償等に関する法律の療養手当、ハンセン病療養所入居者に対する補償金(800万〜1400万)などは全額収入認定していません。「義援金などとともに生活保護費をもらうのは不公平だ」と言った意見がありますが、年金など他の制度では国・自治体の給付金で廃止・削減されることはありません。
私たちは、義援金等を全額収入認定除外にすることを求めるとともに、収入認定除外となる「自立更生のために充てられる費目」の対象と金額を大幅に拡大することを求めます。
国が示した「自立更生のために充てられる費目」は、将来の生活に必要な費用は含まれるとしていますが、実態的にはほとんど認められていません。「自立助長」という目的に照らせば、当然これらの費用も収入認定除外をすべきものです。仮設住宅は一時的な住まいであり、将来の転居等の費用が必要になります。多くの自営業者は、事業再開の目途がたっていません。また、東電の賠償金は、仮払いであって返還が求められる場合もあります。仮設住宅住民や事業再開をめざす自営業者、東電賠償金を受けた人たちの義援金等は、収入認定の除外・猶予すべきです。
(3)生活保護を廃止する場合、厳格に手続き的権利が保障されるべきです。
生活保護の廃止は、保護が必要でなくなったとき、法27条の「指導・指示違反」の場合に限られています。ただ、「指導・指示」は、本人の自由を尊重されなければなりません。福島県知事の審査請求での「違法」という判断は、役所が十分な説明もせず、自立更生計画書提出の手続きがずさんで、法56条(「正当な理由なく保護変更はされない」)、行政手続法の弁明の機会の保障などに反するとの判断からです。厚生労働省は、収入認定で生活保護が廃止できるのは、おおむね6か月以上保護が要しない状態が続くと認められるときとしています。したがって、この要件を満たすためには収入認定をおこない、廃止決定の通知書にも理由と合わせて収入認定額を明記する必要があります。昨年6月24日の全生連との交渉で、厚労省保護課は「自立更生計画書の提出のない保護廃止は取り消されるべき」と答えたのはこのことからです。
(4)私たちは、①被災地での義援金などを理由とした生活保護廃止の中止を求めます。②すでに廃止された人たちを廃止前にさかのぼり、資産などの調査をすることなく、無条件に生活保護の再開をただちに行うことを求めます。ぜひ、多くの団体・個人、自治体、マスコミ関係者をはじめ、国民のみなさんの私たちの見解と運動への賛同とご協力を呼びかけるものです。
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