仙台高等裁判所秋田支部で1月19日、秋田県仙北市(せんぼくし)・角館(かくのだて)生活と健康を守る会の千葉秀喜さん(49)が「生活保護基準以下の収入で国民健康保険一部負担金(3割)の減免が認められないのはおかしい」と訴えた裁判で、その訴えを全面的に認める画期的判決が出されました。千葉さんは伝統工芸の桜皮(かば)細工の職人ですが、作業工賃が低く収入は生活保護基準以下。2006年には国保税の減免申請をして全額免除になっています。その後一緒に働いていた母親の千代子さん(75)が入院して収入がさらに減り、入院・手術の医療費もかかったので一部負担金の減免申請をしました。しかし、仙北市の「要領」では「2分の1以上の減収でない」と認められず、07年9月提訴。10年4月、秋田地方裁判所で千葉さんが勝訴し、仙北市が控訴(こうそ)していました。
「医療費に困っている人たちに勇気と希望を与える、人間味ある判決を出してもらい、とても感激した」と満面笑顔の千葉さん。
秋田県生活と健康を守る会連合会の鈴木正和会長も、勝訴とともに「千葉さんが自分の権利を主張してたたかう中でたくましくなって、自分の人生に自信を持ってきている」とうれしさを隠(かく)し切れません。
生活保護基準が減免判断の目安
高野芳久裁判長の「本件控訴を棄却(ききゃく)する」の言葉を聞いたとたん、連日の大雪にもかかわらず「歴史的な判決に立ち会いたい」と集まった21人の会員の顔に、「やった!」と喜びが広がりました。
県生涯学習センターでの報告集会では、三浦広久弁護士が判決内容をわかりやすく解説してくれました。
特別な事情がある場合の医療費の減免を認めている国保法44条で減免するかどうかの判断は、「生活保護法の生活保護基準を目安にし、世帯の様々な事情を考慮すべき」と、判決は述べています。
「一部負担金の減免が広がれば財政的に大変になる」という仙北市の主張には、「仙北市の国保会計では平成19年度に7118万円の余剰金(よじょうきん)が出ていることからも、その反論は認められない」。
さらに、仙北市が「生活保護で医療扶助を受ければいい」と言っている点は、「自らの意思で生活保護を受けない場合は、国保税や一部負担金の減免などの制度を活用することが、生活保護の補足性(ほそくせい)(他法他施策の活用が優先)の趣旨にも合致(がっち)する」としています。
判決を力にして医療費無料化へ
秋田県では、湯沢市と北秋田市でも7人の会員が国保税や固定資産税の減免裁判をたたかっています。湯沢生活と健康を守る会の高橋忠会長は、「今日の判決は私たちの運動にとても大事な判決。この判決を力に頑張りたい」。北秋田生活と健康を守る会事務局の大沢則子さんは、「千葉さんの勇気に救われる人がいる。私たちも負けていられない」と、千葉さんに引き続き勝利しようと決意しました。
鈴木会長は、「この判決は、仙北市と同じような要領・要綱を持つ他の自治体にも影響を与える。憲法25条に基づいて医療費を無料にするたたかいの新しいスタートをきろう」と呼びかけました。
そして1月25日、仙北市の門脇光浩市長は上告を断念し、減免要領を見直す方針を表明しました。千葉さんの完全勝利です。
(2011年2月6日号「守る新聞」)
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