菅直人首相が「第3の開国」だと言い、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加検討を表明しました。この協定の中心である「関税の撤廃(てっぱい)」が起きると、私たちの暮らしはどうなるのでしょうか。農民や消費者、医療従事者から怒りの声が寄せられました。
荒れる田畑見たくない
安い外米輸入で米作りできず
徳島県小松島市 井上博善(74)
TPPが実行されたら、コメをはじめとして畑作物、乳製品から沖縄のサトウキビまでほとんどが輸入され、日本人の胃袋は外国に握られてしまいます。
私はイチゴの栽培や米づくりなどの農業をする傍(かたわ)ら、土地改良区の副理事長として、230ヘクタールの圃場(ほじょう)(田畑・農園)整備を10年がかりでやり上げたところです。きれいに基盤整備された圃場が、耕作放棄で雑草に覆(おお)われるのだけは見たくありません。
今年は米価暴落で1俵(60キロ)が1万円になりましたが、関税がなくなれば1俵3500円の外米がどっと入ってきて、米作りができなくなります。耕作をやめる農家が増えれば、みんなで負担していた用水ポンプの電気代も集まらず、自家用米の栽培もできなくなり、水田農業や地域が一挙に崩壊(ほうかい)してしまいます。
こんな亡国のTPPは、絶対反対です。
町議会で全議員が反対
農業にとどめを刺し雇用奪う
徳島県勝浦町 井出幸夫(57)
徳島・勝浦生活と健康を守る会では2月28日、税申告の集会の中でTPP(環太平洋連携協定)反対の署名運動の推進について話し合いをしました。
私から、「TPPを結べばアメリカやオーストラリアから安い農産物が洪水(こうずい)のように流れ込んでくる。農水省の試算では、食料自給率は40%から13%へ激減する。日本の米は1割しか残らない」と説明しました。
勝浦町と上勝(かみかつ)町で議員をしている会員2人から、「農業と環境を破壊(はかい)するTPPは絶対受け入れられないというのが全議員の一致した認識だ」と、各町議会で反対決議が上がったことの報告がありました。
地域全体に影響
会員からは、「菅さんは農業のことわかっとらんけん、あんなことを言うんじゃ」という怒りの声が出されました。イチゴ栽培の会員からは、「町の基幹産業である農業がつぶれたら、関連する業界や商店など地域全体がだめになる」と。
商店を営む会員は、「輸入農産物の残留農薬や牛肉のBSE(狂牛病)を規制する基準も、アメリカの言いなりに取り払われてしまうのでは」と、食の安全を心配しています。
反対署名広げよう
藤木武会長は「今までも政府は、輸出大企業のもうけのために農業を犠牲にして自由化し開国を進めてきた。日本の農業は後継者もなく、瀕死(ひんし)の状態になっている。TPPは農業にとどめを刺し、環境を壊(こわ)し、350万人もの雇用を奪(うば)うもの。反対署名を大きく広げよう」と呼びかけました。
TPP(環太平洋連携協定)とは
太平洋を囲む国ぐにを対象に、自由貿易を広げようという協定です。06年度にシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国で発足しました。その後、アメリカやオーストラリアなど5か国が参加表明をしています。
最大の特徴は輸入品にかける関税の原則撤廃で、物品だけでなく金融や投資、保険、公共事業への参入、医療の規制緩和、労働者の移動の自由化など、多くの分野を対象にしています。
(2011年3月20日号「守る新聞」) |