5月28日、「生存権裁判を支援する全国連絡会」の第5回総会で、金沢大学教授の井上英夫さんが新たに会長に就任されました。各地の生活と健康を守る会とも親交のある井上さんに、新会長としての抱負や全生連運動についてうかがいました。
―これからの生存権裁判支援の運動をどうお考えですか。
井上さん(以下敬称略) 社会保障や生存権の裁判には、いろいろな形で関わってきました。朝日訴訟は非常に大きな成果があり、社会保障の発展に大きな意味をもちました。
でも50年がたち、1966年には世界人権宣言(1948年)に実効性を持たせた国際人権規約がつくられ、日本でも人権や社会保障の発展があります。社会の事情も全く違ってきていますから、これらの人権保障の発展を取り入れた議論と、現代とかみ合った裁判のたたかい方をしていきたいと思います。
社会保障や生活保護への風当たりが強くなっています。組織や運動の内部で議論を活発にし、外へ出て大きく議論を巻き起こす必要があるでしょう。朝日訴訟では、広範(こうはん)な人々、特に若い人が大勢参加しました。裁判勝利のために、多くの人に協力してもらう状況をつくり出しましょう。
東日本大震災で問われている「命・生活・健康が第一」の視点
―勝利して憲法25条の「生存権」を実現させたいですね。
井上 憲法25条は「生存権」だけではなく、「生活権」「健康権」など、もっと豊かな内容を保障していることを確認し、さらに豊かなものに発展させていくという視点と運動が必要です。
25条は「最低生活保障」をうたっていますが、 「最低生活」 でいいのか、「人並みの生活」を求めようということです。働けない人は働いている人より低い生活で良いのか。むしろ「働く喜び」を奪われているのですから、せめて生活自体は、みんなと同じで良いのではないでしょうか。
今の政治の混迷(こんめい)は金儲(もう)けが一番の社会になって、政治家をはじめ国民も理念や目標を見失っているからでしょう。理念や目標があれば、それに向かって政策をつくり行政が動くことができる。東日本大震災ではまさに、そこが問われています。「住民の命と生活、健康が第一」という国のあり方があれば、その視点で対応できる。改めて、理念、原理・原則を強調していく必要があります。
社会保障制度をつくってきた全生連の運動に確信を持とう
―全生連運動へも一言お願いします。
井上 全生連は1954年、憲法の原理・原則を実現していく組織として発足し、多数の貧困な人々の生活と健康を守る運動を展開してきました。
今、「豊か」な社会になって、新たに多数の人々の運動をどう形成するかが課題ですね。
運動形態はなかなか「古風」ですが、全生連の運動が今の社会保障制度をつくってきた、そこに確信を持って、「生活と健康を守る」という名前どおりの運動をさらに発展させてほしいと思います。
〈いのうえ・ひでお〉 金沢大学地域創造学類教授、大学院人間社会環境研究科科長。1947年、埼玉県秩父市生まれ。86年に金沢大学に赴任。専門は社会保障法、福祉政策論。貧困、病気、障害などで「固有のニーズ」をもつ人々の人権保障に重点をおいた仕事をし、生活保護、障害無年金、障害をもつ人の参政権保障などの裁判支援に取り組んでいる。現在、全国老人福祉問題研究会会長、高齢期運動基金理事長。編著書に『障害をもつ人々の社会参加と参政権』(法律文化社)、『若者の雇用・社会保障』(日本評論社)など。
(2011年6月12日号「守る新聞」) |