ご自身も被爆者で、直後から被爆者の治療に当たり核廃絶運動にも力をつくしてきた医師・肥田舜太郎さん(95)。4月14日、埼玉県蕨(わらび)市の「原発を考える蕨市民のつどい」(同実行委員会主催)で、「低線量被曝(ひばく)なら大丈夫なのか?」と題して講演されました。要旨を紹介します。(文責・編集部)
肥田 舜太郎(ひだ・しゅんたろう)さん
1917年広島市生まれ。44年陸軍軍医学校を卒業し広島陸軍病院に赴任。45年8月6日、原爆に被爆。直後より被爆者救援・治療にあたり、今日まで被爆者治療と核廃絶運動に献身している。全日本民主医療機関連合会理事、埼玉民医連会長、埼玉協同病院院長、日本被団協原爆被害者中央相談所理事長などを歴任し、2009年に医療活動から引退。執筆、翻訳、講演活動を続け、11年の福島原発事故後は急増した取材・講演に応え続けている。 |
私は、去年3月11日の原発事故の後、福島のみなさんにどう話していいかわからなかった。「明日、家族で相談して遠くに行きなさい」と言われても、無理。みんな、「それができない者にどうしたらいいか言ってくれなきゃ困る」と言う。
考えてみたら私は被爆者で医者、体に放射線の入った被爆者を病気を起こさせないで長生きさせることが私の任務と40年以上、日本原水爆被爆者団体協議会という組織の中で運動を続けてきました。昔から日本人がどういうふうに長生きしてきたかなど、みんなで勉強して知恵を集めました。「自分の命の主人公は自分。自分で健康を守って生きていくことが基本」とわかり、「こうやって生きたらいい」という一つのお手本ができました。
子どもを育てる若いお母さんたちは、不安でいっぱいです。それを今、日本中を歩いてお話ししています。
一度体のなかに入ったら外へ出す方法ない放射線
放射線は、直径が1ミリの60億分の1の小さな粒で、見ることも触(さわ)ることもできない。その小さな粒が体の中に入った場合が一番怖い。体の中に入ったら外に出す方法がないのです。政府が言う「低線量の放射線は体に入っても害がない」は、真っ赤なウソです。
日本では67年前に原爆が落とされました。広島や長崎では、「私は原爆にあっていません」と言う人が、「体がだるくてどうしようもない」と訴えました。医者が診てもどこが悪いかわからない、「ぶらぶら病」と呼ばれた症状の人がたくさんいました。家族を探すなどで焼跡を歩き回り、放射線で内部被曝をしていたのです。
私は、福島でも3年くらいしたら、それが出てくるだろうと心配しています。福島の子どもたちは、国がお金を出して強制疎開(そかい)させるべきだと思います。
安保条約をやめることが一番日本を安全にする道
当時、アメリカは被爆者の受けた被害を軍事機密として、被爆者や医者にも話すことを禁じました。犯(おか)した者は重罪に処すとおどして。原爆の放射線被害は、国民にきちんと伝わらなかったのです。
アメリカは未(いま)だに、ヒロシマ・ナガサキの被害の本当の実態が伝わることを恐れている。爆弾で死ぬのではなく、30年もたって病気で死んでいくのが核兵器だとはっきりわかったら「そんなものを使ってはいかん」と、ものすごい重みがある。
日本は、日米安全保障条約で今もアメリカの言いなり。儲(もう)かるならいいじゃないかと、原発を53もつくった。放射線問題の解決には、まず安保条約をやめてアメリカに帰ってもらう、原発をなくす、核兵器もなくす、国民が言っても従わない政府はやめさせる。それをやることが日本を一番安全にする道です。これから生まれる日本人のために、みんなで日本をきれいにする覚悟を決めましょう。
自分の命は代わりがない
生き方変えて命を守ろう
日本中にホットスポットができて、放射線から逃(のが)れられるところはどこにもない。小学校の女の子の間では、「私は子どもが産めるのか」と話題になっています。
日本の原発は53あって、もうじきかなりの部分が動き出すでしょう。止める方の力は、まだそれほど強くはない。原発は事故が起きたから怖いのではないのです。放射線が人間のコントロールを離れて独り歩きを始めたら、誰もどうすることもできない。
世界中で平素から少しずつ漏(も)れる放射線を大目に見るために、「安全許容量」を決めます。でも、その安全は電力会社の経理にとっての安全で、住民のためではない。その証拠に、原発周辺の町や村では乳がんの患者が増えています。
福井県の大飯(おおい)原発が再開されますが、事故が起こったら誰が責任をとるのですか。日本は大きな戦争をやって負けても誰も責任をとらない、世界中で一番無責任な国です。原発は、「電気ができるならいいわ、いいわ」とつくらせてしまったみなさん方にも責任があります。自分の子孫のために、怖いものはなくしておく、日本をきれいにして残すことは、みなさんの義務だとわかっていただきたい。
ゆっくり自殺の生活やめ親は子に生き方の教育を
みなさんは「自分の命は代わりがない大事な命」と、毎日そう思って生きていますか。私から言わせると、毎日ゆっくりと自殺をしている。ごはんを食べて、大便が3日も4日も体の中に残っている状態で平気で過ごす、これは少しずつ命を縮めることです。「毎日決まった時間にウンチが出るのが当たり前」という教育を、子どもにお母さんがどれくらいしていますか。
夜は遅くまで起きていて、朝は目覚ましをこれ以上止めたら遅れるというときまで寝ていて、ごはんもろくに食べずに会社に行く。挙句(あげく)の果てに、具合が悪くなって医者に行って「先生、治してください」と言うが、治りっこない。
医者がどのくらい、みなさんの命を真剣になって考えてくれていますか。患者の顔も見ないで、脈もとらず聴診器もあてずに前と同じ薬を出しています。
人間のすることは六つ一つ一つにルールがある
人間のすることは、眠る、食べる、排泄をする、働く、遊ぶ、セックスをする、の六つだけ。一つ一つにルールがある。“過ぎたるは及ばざるがごとし”。食べ過ぎは一番、健康を壊(こわ)します。
子どものときから親に正しい生き方を教わっていれば、生活習慣病もほとんど出ないですむ。幼稚園から、「あなたの命はどこの誰よりも尊い、たった一つの命なんですよ」と教える教育が始まったら、人間のありようが変わります。
血圧が高いとか糖が出るとか、もうどこか具合の悪い人はいっぱいいます。自分がそうしてしまったのです。人間の体は自然の一部、1日に3度食べ、トイレに行き、夜もそこそこ寝ているつもりでも、自分の命をまじめに考えてみると、体にとっては不十分なことがある。どこが不十分だったかを1日も早く探し出して、“自分の生き方を変える”、これが一番大事です。被爆者でも、それをやれば70歳、80歳、90歳まで生きている。
自分を守るのは自分だけ憲法をよく読み考えよう
特に放射線が相手となったら、「体に悪いということは全部しない」と決心して、守ることを紙に書いて今日は守ったかを点検して生きるぐらいの熱心さを持たないと、たたかえないのです。そして、たたかうのは自分。最後に自分を守るのは自分なのです。
「憲法9条を守る。政府に守らせる」と言うけれども、自分は守っているでしょうか。だいたい守っていません。「健康を守れ」と言っているだけでは、健康は守れるものではない。
日本国憲法をよく読んで、憲法が言っている中身に、自分の考え方と生活を改めないといけないのです。
(2012年5月13日号「守る新聞」) |