第58回日本母親大会が8月25、26日、新潟市で開催されました。会場には、平和で人間らしい暮らしを願い、全国から延べ1万3200人が参加しました。25日は、分科会やシンポジウムなどが34のテーマで行われ、2日目は、全体会が開かれました。初日の「憲法25条を生かして貧困のない社会を」の分科会には、総勢200人が出席。助言者の井上英夫金沢大学教授や、吉田松雄新潟県生活と健康を守る会連合会事務局長の話に、多くの質問や、実態・取り組みが報告され、会場は、熱気に包まれました。来年は、東京で開催されます。(西野武記者)
社会保障、昔へ逆戻り
昨今の厳しい社会情勢を反映してか、「貧困」をテーマにした同分科会には、全国各地から多くの人が参加し、会場は席に着けない人も出るほどでした。
冒頭で、井上教授は、「『貧困』の拡大が、こうしたテーマの分科会を盛大にしています。行政の社会保障、税の在り方への施策がひどく貧困なために、厳しい環境を作り出してしまっています」とあいさつ。
さらに、札幌白石区の姉妹孤立死事件の調査団長として、現地で行政と交渉した内容にも触れ、「同区で起こった25年前の餓死事件を再発してしまいました。区職員の深刻さが感じらず、命を軽んじています」と語り、構造的な社会の仕組みが、「貧困」を作り出し、その「貧困」は人権の迫害に当たることを訴えました。
続いて、吉田新潟県生連事務局長が「民主・自民・公明3党が、社会保障の解体を狙っています。これは憲法25条の考え方を真っ向から否定するものです。公的責任から、自立・自助(自分で)、共助(家族で)、公助(自治体、最後に国で)へ逆行させようとしています」と述べました。
また、「お笑いタレントの母親が生活保護を受給していたことで、生活保護へのバッシングが広まり、『守る会』へ『生活保護を切られたらどうしよう』『扶養を子どもに押し付けられたら生きていけません』といった声が多く寄せられるようになりました」と話しました。
井上教授が「社会保障の内容が、1874(明治7)年の恤救(じゅっきゅう)規則の水準まで、落ちてしまいました。憲法25条は、『生存権』と考えられがちですが、『健康権』や『生活権』ととらえればもっと広がりが出てくるはずです。憲法を豊かにとらえて、生活の中に生かしていきましょう」と提案。会場は、大きな拍手に包まれました。
市の職員が内容改ざん
新潟生活と健康を守る会の新潟生存権裁判原告・阿部長治さん(87)は、「東京、福岡の最高裁判決では、三権分立の意味がないと思いました。新潟の12月14日の高裁判決に期待してます」と話しました。
静岡県・磐田(いわた)生活と健康を守る会の神崎伸子さん(67)は「磐田では、交通事故の後遺症で苦しむ40代の青野広夫さんが、生活保護申請を6回出し、6回断られました。2回目と5回目に不服申請を出し、『守る会』が5回目から支援。やっと認められました。市の職員が内容を改ざんしていたことが明らかになりました」と報告。
参加した会員からは、多くの感想が届きました。新潟県生連の渡邊和子さん(67)から「初めて参加しました。私たちも全生連の全国大会に向け熱い心で参加したいです」、京都・右京生活と健康を守る会の勝浦典子さん(67)から「憲法への豊かな発想の話に力をもらいました」、岩手県・釜石・大槌生活と健康を守る会の中村光さん(72)から「国民・被災者いじめの政治に怒りを覚えます」などの声がありました。
第58回日本母親大会in新潟
憲法25条が保障した生活保護を守り抜く
26日の全体会は、ジャーナリストの斎藤貴男さんが「格差と貧困のない社会を―3・11以後…私たちはどう生きるか」をテーマに講演。チェルノブイリ原発事故で被曝した歌手でバンドゥーラ奏者のナターシャ・グジーさんが歌と演奏で会場を魅了しました。
続いて、各地の代表者が、原発ゼロや環太平洋連携協定(TPP)などの運動を報告。生活と健康を守る会からも登壇、2人が発言しました。
年末の判決期待
新潟生存権裁判原告代表で新発田生活と健康を守る会の長谷川シズエさん(88)は「私たちは7年前まで、憲法25条に基づく最低限度の生活費としての保護費が支給されていました。それが、突然2割も減額されました。これでは、『健康で文化的な生活』などできるはずもありません。親しい人の葬式や、結婚式にも出られないので、お金のかかる人付き合いはしないように努めてきました。20回もの裁判審理を重ね、年末には新潟高裁で判決が出ることになりました」と訴えました。
これからも闘う
続いて、北海道生活と健康を守る会連合会副会長の細川久美子さんが、札幌の40代姉妹の孤立死事件を報告。
「姉は病死、知的障害者の妹は凍死、多くの人たちが衝撃を受けました。姉は一昨年6月から1年間で3度も保護課を訪れ、窮状を訴えましたが、生活保護の申請がされなかったのです。姉妹の困窮を知りながら、申請したいと言わなかったから保護に結びつかなかったとうそぶく保護行政を許すことができません。憲法25条が保障した生活保護を守るために、これからも闘います」と力を込めました。
会場前では、福岡県生連の代表が新潟県生連からの支援を受け、生活保護の老齢加算復活の差戻審裁判署名用紙を2000枚配りました。
(2012年9月9日号「守る新聞」) |