生活保護の基準引き下げや「適正化」攻撃が強まる中で、日本弁護士連合会(日弁連・山岸憲司会長)は9月20日、「我が国の生存権保障水準を底支えする生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」を出しました。日弁連・貧困問題対策本部事務局長の猪股正弁護士に全生連・辻清二副会長がインタビューしました。(小古間ゆりか記者)
日本弁護士連合会貧困問題対策本部事務局長 猪股 正 弁護士
いのまた・ただし 埼玉総合法律事務所。消費者問題、貧困問題を中心に取り組み、震災・原発事故後は原発被害救済弁護団に参加。埼玉弁護士会消費者問題対策委員会委員長、埼玉県消費生活審議会会長、日弁連多重債務対策本部委員などを歴任。著書(共著)に、『検証日本の貧困と格差拡大』(日本評論社)、『もうガマンできない! 広がる貧困―人間らしい生活の再生を求めて』(明石書店)など。 |
辻 日弁連は、生活保護基準引き下げと「適正化」攻撃をどのようにお考えですか。
猪股 生活保護基準は、福祉、教育など国民生活のさまざまな基準と連動しています。生活保護を利用している人だけでなく、市民生活全体に影響する重大な問題です。例えば、生活保護基準が下がれば最低賃金引き上げの目標額も下がります。労働者の労働条件にも影響する、働く人の問題でもあるのです。
生活保護の利用要件を満たしている人で、実際に利用できている人の割合(捕捉率)は2〜3割くらいと推定されています。今回検討されている引き下げの考え方は、低所得世帯の消費支出と生活保護基準を比較するものですが、低所得世帯の中には生活保護を受けられるのに受けていない漏給(ろうきゅう)層の人たちが大量に含まれているので、低所得世帯の支出の方が低くなるのは当然です。
このやり方で生活保護基準が引き下げられるとすれば、基準は際限なく下がっていくことにつながります。
国は扶養義務強化をねらう
辻 国は親族の扶養義務をさらに強化しようとしていますね。
猪股 私は埼玉の三郷(みさと)生活保護裁判を担当していますが、原告は保護申請に行って10回以上追い返されました。そのたびにケースワーカーが持ち出したのが「身内の援助を受けなさい」ということでした。バッシングで強調されたのも、身内の援助を受けていないことが不正受給だということでした。しかし、法律は、そのことを保護適用の要件とはしていないので、そもそも不正受給だという指摘自体間違っています。扶養義務の強化は、これまで以上に、保護の窓口から追い返される人を増やす恐れが大きいといえます。
不正受給は金額ベースで0・4%弱でしかないのに、あたかも多くの人が不正受給をしているかのような報道がなされていることも大きな問題です。
生活保護受給者が211万人を突破して過去最高になったのは、貧困に陥(おちい)る方が増えているからです。企業が非正規労働者を増やし不安定・低賃金で働く人が増えたことや、失業保険など生活保護以外のセーフティーネットも十分機能していないことが原因です。
思いを共有し運動強めよう
辻 最後に全生連の会員へメッセージを。
猪股 改悪の動きを止めるには、当事者の声がとても大切で、当事者が前面に立つ運動こそが力になります。
日弁連は、11月28日に全国一斉生活保護ホットラインに取り組み、12月4日には引き下げ反対の市民大集会を開催します(18時〜東京・星陵会館)。
1人ではなかなか声があげられません。みんなとつながって、思いを共有しながら声を上げていくプロセスが必要です。ぜひ、暮らしの実態を伝えてください。ご一緒に、生活保護の改悪をやめさせる運動をしましょう。
全国一斉生活保護
ホットライン(電話相談)
11/28(水) 10時〜22時
フリーダイヤル 0120-158-794 |
(2012年11月4日号「守る新聞」) |