大阪府・枚方(ひらかた)市の生活保護自動車保有訴訟は、4月19日大阪地方裁判所で“完全勝訴”の判決が言い渡されました。2010年2月23日に、枚方・交野生活と健康を守る会会員の佐藤キヨ子さんが、自動車保有を理由に生活保護申請を認めないのは違法であると市を提訴し、3年2か月余が経過しました。15回にわたる口頭弁論は、大法廷がいつも満席で、全国から「公正裁判を求める署名」が、1万4022人分寄せられました。
(野田隆治さん)
172万円の損害賠償認める
大阪地方裁判所(山田明裁判長)は、生まれつき両股関節全廃の障害を持ち、歩行が困難な佐藤さんが、日常生活に不可欠で、かつ資産価値もない自動車の保有を理由に生活保護費の支給を廃止され、再度の保護開始申請も却下されたことについて、廃止処分および却下処分の違法性を認め、却下処分を取り消すとともに、国家賠償法上も違法であるとして、被告枚方市に対して約172万円の損害賠償の支払いを命じました。
判決は、枚方福祉事務所長による厚生労働省保護課長通知の解釈適用の違法性を認めて、保護申請の却下処分を取り消した上、枚方福祉事務所長が「何ら実質的な検討を行わず、本件自動車が処分されていないことを理由に漫然(まんぜん)と処分を行った」として、国家賠償法上の違法性をも認め、不当に自動車保有を制限する運用を厳しく断罪しました。
国の通知に踏み込む判断
判決は、保有要件を満たした場合の自動車の利用目的を通院等などに限定する実務運用についても、直接の争点ではなかったにもかかわらず「なお」書きで言及し、「生活保護を利用する身体障害者がその保有する自動車を通院等以外の日常生活上の目的のために利用することは、被保護者の自立助長およびその保有する資産の活用という観点から、むしろ当然に認められる」として、本件のみならず全国的に蔓延(まんえん)している実務運用を厳しく批判しました。弁護団は、「裁判所が、厚生労働省通知のあるべき解釈について踏み込んだ判断を示したのは初めて」と、高く評価しました。
佐藤さんは、「これで気兼ねなく友達に会いに行ける。足が痛いのを忘れるくらいうれしい」と話しました。枚方市は、判決の意義を真摯(しんし)に受け止め、控訴を断念すべきです。
尾藤廣喜弁護士は「今、生活保護基準引き下げ・締め付けがなされようとしている時期に、最低限の生活としての障害者が移動のために自動車保有を広く認めたことは大きな意義を持つと思う。これは生活保護利用者の生活保護水準を底上げするだけでなく、ナショナルミニマムの引き上げることにつながる」と語りました。
(2013年5月12日号「守る新聞」) |