東京・荒川生活と健康を守る会会長の角(かく)光男さん(66)は、荒川区登録無形文化財の認証を持つ江戸漆器(しっき)の塗師です。塗師とは漆塗りの職人のことを言います。このほど角さんの元に、塚本真理恵さん(23)が弟子入りしました。「会」の運動にも奔走しながら伝統の技を指導する角さんと漆に情熱を注ぐ塚本さんを荒川の工房に訪ねました。
(西野 武記者)
角さんは、1947(昭和22)年、福井県武生市に生まれ、高校を卒業して上京、義理の兄が経営する加藤漆器製作所に勤めました。
「上京する2年前の16歳の時に、子守りを手伝いに来ていて、義理の兄が作業する漆の乾いた匂いがとても印象に残りました。職人になるなら早い方がいいと思い、すぐに福井に戻って家族に高校をやめて塗師になりたいと懇願したが、母親に猛反対されました」と当時を振り返ります。
仕方なく、高校の卒業を待って上京、住み込みで朝9時から夜9時まで作業に没頭したと言います。「当時は、休みは月2日。間もなく3回になりました。仕事は、教わると言うより、見て体で覚えるという感じでした。一回り上の親方(義兄)は口数が少なく、怖かったです」とほほ笑みました。
コップやおわん、皿などに塗る原料の国産漆は、中国産の13〜14倍の値段で、主に仕上げに使われます。
大変だと感じることは? と尋ねると「これで食べていくこと。それでもお客さんに喜んでもらうと苦労を忘れます」と言葉を強めました。
角さんは「世界で一つ丈夫な漆器をつくることを心掛けています」と断言します。「漆の可能性は大きく、もっと違ったところでも人に役立つはず。漆の抗菌作用でビール、水、牛乳の味が違うと言われます」と続けました。
話が「会」に移ると第一声は「昨日も帰宅は、夜11時過ぎ」でした。「入会は27歳で、当時は保育、就学援助などの運動をやりました。41歳で荒川の会長になり26年目です。昔の相談者は、見た目で、すぐに生活に困っていると分かったのですが、今は、訪問して、話を聞かないと分かりづらくなりました。5、6年ぐらい前から精神を病んでいる人が増えました。社会全体が歪んできたという印象があります。『会』として、今後若い人たちが安心して暮らせる環境を整えるためにも、若者を組織して、要求を実現していきたいです」と語りました。
塚本さんが弟子入り
京都造形芸術大学を2013年4月に卒業した塚本さんは、同年1月から3か月間見習いとして入り、卒業と同時に弟子になりました。大学では文化財保護を学び、漆のゼミに在籍、「劣化しにくい漆に興味を持った」と言います。荒川区が全国の大学に発信した「荒川の匠育成事業」に応募して弟子入りがかないました。
塚本さんは「分業のイメージがあったのですが、工程すべてをやるという点が新鮮でした」と話します。
さらに「親方は、『会』と塗師の二足のわらじをはき、大変忙しいので、体を大切にしてほしいです」と、親方の健康面を気遣う一面も。
将来の抱負は「江戸漆器の良さは、触れてみて初めて分かります。海外の人にももっと広く知らせていきたいです」と語りました。
角さんは、塚本さんに「辛抱強く頑張ろうとする姿勢がいい。これからも記録をしっかり取り、体で覚えていってほしい」とエールを送りました。
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2月19〜25日、新宿高島屋10階で実演販売。
角漆工 角光斎(光男)
1947年 福井県武生市生まれ
1966年 東京都荒川区の加藤敏朗に師事、住み込みで修業
1981年 独立
1984年 ジャパンインロッテルダム(オランダ)出展、実演を行う
1988年 デパート職人展などに出店、年数回デパートで実演販売
1999年 荒川区登録無形文化財保持者に認定
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電話=03(3893)0839
FAX=03(3893)0489
(2014年2月2日号「守る新聞」) |