お金と時間をかけて、遠くへ出かけるだけがレクリエーション、レジャーではありません。「安・近・短」で工夫を凝らして手軽にというのも、捨てたものではありません。東京の新宿生活と健康を守る会が梅雨入り前の一日を、そんなふうに過ごしました。今回の目玉は都電(東京都交通局荒川線)の貸し切り。一行専用車両で「出発進行」と相成りました。(番匠 寛記者)
どなたも気軽に みなさん満足げ
6月5日午前10時過ぎ。早稲田大学そばの早稲田停留所に参加者が三々五々、集まります。会員外も含め20人での小さな旅です。
「泊りがけの旅行会は開催してきた。でもそれだと参加者が限られてしまう」と石黒之俐子さん。「誰もが気軽に出られるものも不可欠」ということで今回の企画となりました。
一行がそろってしばらくするとお待ちかねの貸し切り電車が到着。ダイヤの都合上、停車時間はごくわずか。早速、乗り込みます。
乗車したのは丸みを帯び、横型大型窓が特徴的な8800型。2009年が導入初年度とまだ新しく、内装は白色系でまとめられ、座席シートには模様が入っていました。「きれい」「すてき」と上々の評価を得て、10時30分に出発しました。
終点の三ノ輪橋までは53分。ゆっくりと進んでいきます。沿線にはバラやアジサイが咲いていました。花に見とれたり、おしゃべりに興じたり、はたまたきょうのこれからの予定を考えたりなど、思い思いの時間が過ぎていきます。
貸し切りなので途中の停留所はノンストップ。電車を待つ人たちは「えっ、止まらないの」「乗れないのか」とがっかりした様子。対して、こちらはちょっと誇らしげでした。
終点に到着。「都電は何十年ぶり」「三ノ輪橋まで乗ったのは初めて」「のんびり、ゆったりで良かった」とみなさん満足げ。ここで旅はいったん終了、その後はオプションとなりました。
安・近・短の一日 いろいろとエコ
キーワード「安・近・短」の「安」は費用の安さ。行きの都電の貸し切り料金は1万3820円ですが、会の財政が全額負担し、個人負担はゼロ。帰りはそれぞれの負担となりますが、シルバーパス所有者(対象は70歳以上の東京都民)なら、都電のほかほとんどの乗り合いバスなども無料。したがって、オプションの巣鴨とげぬき地蔵参拝の有無に関係なく、帰路も対象交通機関を利用すると、交通費はかかりません。
昼食は三ノ輪橋停留所付近の飲食店。このあたりは都心の繁華街とは異なり、チェーン店を除くと有名店はありません。この地で代々営業といった、年季が入った庶民的でコストパフォーマンスのある店が目立ち、割安でした。
また、停留所から徒歩1分、465メートルのアーケードにおよそ130店が軒を連ねるジョイフル三ノ輪橋商店街は、総じて激安。一行からは「安いね。買って帰ろうか」という声も上がっていました。
工夫次第で出費を抑えることができ、お値打ち商品もゲットできます。そして、都電は電車ですから二酸化炭素を排出しません。財布と地球のそれぞれに優しかった、エコロジカルな小さな旅でした。
荒川線一口メモ 運賃170円の庶民の足
延長12・2キロで、停留所数は30(起終点含む)。運賃は170円均一(大人)で運転本数も多い(ラッシュ時5分毎(ごと)、日中で6〜7分毎(ごと))。利用者は一日平均4万5000人(2012年度)を数える。
最盛期には41系統・213キロを有した都電だが、道路渋滞の元凶の一つとされ、経営悪化も相まって1967年から72年にかけて大半が廃止された。今ではかつての2系統からなる荒川線が残るのみ。
荒川線がごく一部の区間を除いて廃止を免れたのは(1)黒字が見込まれる(2)一般的な路面電車とは異なり、線路と道路が区分された、電車が道路上を走らない専用軌道がほとんどを占める―ことなどによる。
(2015年6月21日号「守る新聞」) |