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深谷市で無理心中事件 謎だらけ 親子3人の悲劇はなぜ

 事実関係は明白。しかし、その背景は全く謎だらけ―。埼玉県深谷市で起きた高齢夫婦の死亡事件です。殺人罪などで逮捕され、起訴されたのは夫婦と一緒に暮らしていた三女。裁判ではどのような真相が明らかになるのでしょうか。(番匠 ェ記者)

 事件は11月21日夜、市内を流れる利根川で起きました。三女が運転する、夫婦を乗せた乗用車が川に飛び込みました。無理心中です。
 一家は母親の認知症、父親の病気、三女の介護離職という深刻な事情を抱えていました。困り果ててということなのでしょうか。最悪の結末となってしまいました。しかし、母に対する殺人と父の自殺幇助(ほうじょ)で起訴された三女は何とかしようと行動し、事態打開の道筋も見えていました。
 母親は認知症が悪化し、父親は病気のため事件の直前に、勤めていた新聞専売所を退職しました。収入源を絶たれ、父親は手術が決まっていた一家。三女は市役所に相談しています。11月2日に生活保護の説明を受け、17日には申請用紙を持ち帰りました。

生活保護申請
受理の矢先に

 市は2日の時点で一家の事情を把握。母親が介護サービスを受けていないことが分かり、その日のうちに介護セクションに話をつなぎました。また、社会保障協議会の貸付金制度のことも知らせています。
 生活保護については申請書を渡した時点で意志を確認し、申請受理。申請日を17日としています。19日には職員が一家を訪問しました。その2日後の悲劇でした。
 朝日新聞などの報道によると、三女は父親から「3人で一緒に死のう」と頼まれ、無理心中に至ったようです。
 確かに置かれた状況は最悪でした。夫婦は無年金で、国民健康保険税の滞納もありました。しかし、謎は残るばかりです。
 11月12日に退職した父親は給料が月末締め。11月1日から12日までの分を受け取りに行かないままでした。また、夫婦の子どもは娘3人で、姉妹仲は良好だったと言われています。長女からは野菜の援助などがあり、三女はメールなどでやりとりしていました。自治会は脱退していましたが、近所付き合いはあり、孤立していたわけではありません。
 父親は妻の世話は自分で、という思いがとても強かったと言われています。そこに「介護疲れ」「将来に絶望して」などのさまざまな事情が絡み合ったのでしょうか。

市に事情聞く
埼生連も動く

 事態を重く見た埼玉県生活と健康を守る会連合会の綾好文副会長、浅名勝次副会長、高藤登喜恵事務局長の3人は12月2日、深谷市役所を訪ねました。この間の事情を聞くとともに、小島進市長宛てに、このような悲惨な事態が再び起こることがないよう、適切な対策を求める文章を提出しました。
 市からは福祉健康部次長ら関係者が対応。家庭訪問時の状況などについて詳しい説明がありました。市会議員3人が同席しました。


深谷市一口 メモ

 埼玉県北部、利根川と荒川に挟まれた地域に位置する。1955年に市制を施行、06年には平成の大合併で、近隣3町と合併した。人口は12月1日現在で14万5176人。農業が盛んで、特にネギで有名。近年はブランド牛「深谷牛」の産地としても知られている。最近は、2015年ゆるキャラグランプリで3位を獲得した「ふっかちゃん」と、アウトレット商業施設誘致でも話題になっている。


やりきれぬ思い 好き勝手な言い分

 よくあるパターンだが、事件が報道されるやいなや、インターネット上にはさまざまな書き込みがあふれた。そのほとんどが一方的な見方しかしていない、もちろん実名を出さない無責任きわまりないものだ。市役所には「対応した職員の名前を教えろ」とこれまた匿名の電話がかなりかかってきたという。
 ネットの書き込みは「とても担当した本人には見せられない」と市の福祉健康部次長。何か事件が起こるたびに無関係の第三者が、事情が分かっていないのに好き勝手を言ってはばからない。いつの間にかこんな嫌な世の中になってしまった。
 介護離職と介護疲れ、先行きの生活の不安、そして無責任な声の数々。全くやりきれない。

(2015年12月27日号「守る新聞」)

 
   
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