生活する上で欠かせないものの一つに住まい、家があります。低所得者にとっては家賃の安い公営住宅の入居希望は切実です。しかし戸数は極めて少ないのが現状で、自治体は財政難を理由に新規建設に消極的です。そして、入居難を克服しても暮らし続ける間に思ってもみなかったことが起こったりします。東京の都営住宅の事例を紹介します。
(番匠 寛記者)
建て替えに不安と疑問
都営花畑第3アパート
東京23区の北東部に位置する足立区には、数多くの公営住宅(団地)があります。経済の高度成長期に一気に増え、老朽化しているところが少なくありません。
東武鉄道竹の塚駅からバスで10分弱。18棟(中層)に約700世帯が暮らす、都営花畑第3アパートがあります。ここも建て替え問題が住民を悩ませています。
今年で築45年。経年劣化が進んでいるだけに、建て替え自体に異議を唱える居住者は多くはありません。しかし、それに伴ういろいろな問題が降りかかってきます。
昨年12月に地質調査を行ったにもかかわらず、都の建て替え計画発表は唐突でした。今年5月8日の自治会総会で明らかにし、6月上旬にお知らせを全戸に配布しました。
3期に分かれた10年近い計画に、一番困惑しているのは第一期分の4棟・170戸の居住者です。退去期限は10月中で、調査票提出も7月10日までというあわただしさ。この夏は引っ越しの準備で終わってしまいます。
公営住宅の多くがそうであるように、この団地も居住者の高齢化が進んでいます。荷物の整理・梱包、諸手続きなどを短期間で行わなくてはなりません。大仕事です。
まずは移転先探し。区内を中心に都が斡旋(あっせん)します。でも、必ず希望する所に入居できるわけではありません。募集以上の応募があれば抽選です。8月にかけて行われる見学会で、二十数か所の中から複数の候補を選定する必要があります。
また、花畑に戻るか否か、今後の方向も決めなくてはいけません。希望者は全員、戻れます。しかし、元の間取りに関係なく、単身者は1DK、2人世帯では2DKとなり、以前より狭くなるケースが生じます。
団地には、居住者本位の建て替えを求める足立生活と健康を守る会の花三班があり、問題点などを話し合っています。7月12日には会員外にも呼びかけて、居住者の意見を聞く集会を開きました。
「都の説明は不十分で、説明会は時間が短く一方的」「移転先として示されたのは古いところが多い」「都負担の移転料は、先払いにしてほしい」―。不安と疑問が続出しました。
これらの声を都に届けます。
入居はとても狭き門
募集は毎回高倍率
東京には約26万戸の公営住宅があり、その大部分に当たる約24万戸が都営です。民間と比べ家賃が抑えられていることからニーズは非常に高く、供給が需要に全く追いついていません。入居抽選は毎回、高倍率が続いています。
都営住宅の今年5月の募集は、4つの区分で行なわれました。その中で世帯向けは募集1450戸に対して申込者は4万395人で、倍率は27・9倍(前回、昨年11月は26・2倍)でした。この数字は全体の平均値で、立地や交通の便など条件の良いところは、これをはるかに上回る、超高倍率です。
多くの人たちが願う都営住宅入居。生活と健康を守る会も重点課題の一つとして、対策を強めています。東京都生活と健康を守る会連合会は5月の対都交渉で、都が新規着工を行わない中で、事業用の一部を募集用に転換してほしい、と要求しました。また、各単組では入居相談会を定期的に開いています。
廃止の陰に東京五輪 都営霞ヶ丘アパート
解体工事が進む都営霞ヶ丘アパート。敷地の一部が東京オリンピックの会場にもなる新国立競技場と重なることから、建て替えではなく廃止です。
JR千駄ヶ谷駅から徒歩10分弱の10棟・約300戸の中層住宅で、商店街もありました。
(2016年7月31日号「守る新聞」) |