豊橋市の生活保護・障害者加算の過誤支給問題が7月26日、市の発表で明らかになりました。豊橋生活と健康を守る会は利用者に返還を求める市に、2月1日の東京地裁判決(※)を基準に話し合いをすべきと要望書を提出(8月27日号5面既報)、交渉や市長要請などを重ねました。9月28日、市は「返還を求めない」と発表。個々に調査して行政が自ら請求を取り下げた今回の豊橋市の判断は画期的なことで、豊橋生健会は喜びとともに、この教訓を全国に広げたいと考えています。
「障害者加算の認定に誤りがあり1989年から29年間、25世帯に1530万円を多く支給し、受給資格がある2世帯に2011年から約123万円が支払われていなかった」との豊橋市の発表後、豊橋生健会は8月1日に市交渉を行い、「生活保護法第63条の返還よりも、憲法25条の最低生活の保障が優先する」とした東京地裁確定判決を踏まえるよう要求。市は「判決は知らない。国から判決についての指示はない」と答えました。
8月16日、再度の交渉には愛知県生連や生活保護基準引き下げ反対愛知県連絡会、愛知県障害者(児)の生活と権利を守る連絡協議会も参加しましたが、市は「東京地裁判決などを検討中。結論が出ていない」の一点張り。私たちは記者会見をし、一連の経過と要求を宣伝ビラにして市役所前で配布しました。
当事者に面接し
個々の資力調査
9月1日、佐原光一市長が「(東京地裁の)判例を理解できておらず、返還請求はいったん取り下げる」と記者発表。その後、当事者へ面接による「資力調査」を行い、市職員は「過誤支給分は何に使ったのか。買った物は何か」などと、過誤支給の認識のない当事者には答えようのない質問をしていました。
私たちは「再度の返還請求はするな」の市長あて要請FAXを、会員、労働組合や民主団体、県内の各生健会に広く呼びかけました。生健会事務所から発信したFAXは35通。第2号のビラも市役所前で配布しました。
9月28日、豊橋市は「返還を求めない」と発表し、翌日のマスコミ各紙は一斉にこれを報じました。市は、「調査の結果、自立更生費として消費済み、または消費予定のため返済能力なしと判断。返還請求しない」との文書を市議会議員あてに出し、翌29日の市議会最終日で今回のミスと不適切な対応の責任をとり市長の3か月の減給(10%)処分などを決めました。
地裁判決定着へ
豊橋方式活用を
10月16日、事実確認の交渉を行い、「返還を求める国の方針に変更を求めないのか」と問いました。市は「現行の国の指導の範疇(はんちゅう)での今回の結論だ」として、これまでの国の方針でも東京地裁判決がいう一律でなく「個々の返済資力の検討」ができることを示し、東京地裁判決を定着させました。
豊橋生健会は、「豊橋市の判断は、他の過誤支給問題でも『個々の資力の検討をするべきだ』と指摘できる。各地で活用してほしい」と訴えます。
(山田公一さん)
※2013年、東京の母子家庭の母が、児童扶養手当の収入認定見落としと冬季加算の誤支給による保護費過払い分の返還を迫られ起こした裁判。今年2月1日勝訴確定。
本当によかった
当事者 渡辺聖一さん(48)
返還しなくてよいことになり、本当によかったです。市からの返還請求の通知が来て、約85万円の明細書の数字を見たときはビックリしたというより、とても返せる額ではないと開き直った気持ちでした。自分の知らないことでの請求に怒りがわいて、インターネットで新聞社に意見を伝えました。
今でも、どうしてこんな間違いが起きたのか信じられません。問題が起きてからわかったことですが、障害厚生年金3級、障害者手帳2級の私の手帳の級で加算していて、月額約1万6000円が5年間、過誤支給されました。
8月から障害厚生年金が2級になり、年金額がアップして保護基準を数千円上回り、生活保護は支給停止になりました。障害厚生年金3級では障害者加算はなく、2級になると保護基準を超えてしまう。加算の意味がありません。
生健会のみなさんが当事者でもないのにどうしてそこまでやってくれるのか、当初はとても不思議でしたが、今は私も会員です。
(2017年10月29日号「守る新聞」) |