生保引き下げ 二種類の計算法
適切でないと総務省
厚労省だんまり
疑問、いや不信は深まるばかりです。生活保護基準引き下げにあたって厚生労働省が示した指標・数字の信ぴょう性が問われています。各地で闘われている基準引き下げの取り消しを求める裁判の法廷や、国会議員らのヒアリングで、役所からはちゃんとした答えが返ってきません。なぜ答弁に詰まるのでしょうか。忖度が働いたのか、都合のいい数値を使った無理やりの引き下げ。つじつまは合わなくなるばかりです。(番匠 寛記者)
口ごもる被告側 裁判長だめ出し
なぜか二種類の計算法を用いて、実態とは異なる物価下落率を導いた保護基準引き下げ。これへの問いに対し、またもしどろもどろだったり口ごもったり。5月15日にあった「新生存権裁判 東京」の第3回口頭弁論での被告側の姿は、前回と同様でした。
こんなありさまでは到底審理にはなりません。次回口頭弁論は9月4日。裁判長はそれまでにきちんとした書面を出すよう被告側に求めました。返事は「3か月後に」でしたが、そんなに遅く提出されては、原告側にとっては、反論の準備期間が短かすぎます。「夏休み前に」との裁判長の求めに、被告側は「7月19日までに」と答えざるを得ませんでした。
引き下げで苦しさと不安が増すばかりの生活。「国は過ちを認めてほしい」―。原告の70代の女性が切々と訴えました。
「病気のため働くことができず、57歳の時から生活保護を利用。年金と保護費だけでは苦しく、毎月、手元に残るお金はほとんどない。自転車操業のようなやりくりで、食事に誘われても費用が捻出できず、うそをついて断っている。節約のために買い物は業務用スーパーで安い食材のまとめ買い。バランスのとれた食事は難しい」
弁護団は「自民党の選挙公約の下、政治的な意図を持って引き下げ」と指摘しました。
国会の場で論戦 フェイク許すな
「意図的な引き下げ」を巡る攻防は、国会でも繰り広げられています。4月24日の橋千鶴子議員(共産)、5月15日の尾辻かな子議員(立憲)の質問に続き、5月16日には厚生労働省と総務省への野党合同ヒアリングがありました。厚労省からの出席者は社会・援護局保護課長。引き下げについては「大臣の判断」と答えにとどまり、詳しい説明はありませんでした。
二つの計算法を使ったことは、厚労省も認めています。しかし、異なる方法を用いるのは異例で、それでは連続性は担保されません。総務省統計局も「一般論として適切ではない」との見解を示しています。これが意味するところは明白です。
ヒアリングには、厚労省を追及し続けているフリーライターの白井康彦さんも出席。「フェイクによって最低生活ラインを切り下げ、国民の信頼をぶち壊した」と述べました。
「統計不正の先駆け」「問題がある方式を選んだ」―。議員からは怒りの言葉が相次ぎました。
政府統計 なんと6割強に問題点
総務省点検で判明
生活保護を巡る裁判の争点の一つとなっている政府統計の危うさ。総務省統計委員会の点検検証部会が、毎月勤労統計の不正調査問題を受けて点検したところ、6割強に何らかの問題があることが分かりました。
重要度の高い「基幹統計」(56統計)と、「一般統計」(232統計)を点検。前者では24統計に、後者では154統計に不適切な対応がありました。「一般統計」では、利用上重大な影響が懸念される数値の誤りは「該当なし」でしたが、16統計に誤数値がありました(14統計は訂正公表済み)。
保護基準策定に特に影響しないにしても、6割強に問題点。政府統計への信頼度が急低下しかねません。
(2019年6月2日号「守る新聞」) |