被告、余裕問う尋問 原告、実態示し違法性主張
初の本人尋問行われる 愛知生活保護裁判
生活保護基準引き下げは生存権を保障する憲法25条に反するとして、愛知県内に住む生活保護利用者20人が国と名古屋市など4市を相手取り、引き下げ取り消しと国家賠償を求める裁判(愛知生活保護裁判)の第3回証人尋問が10月24日、名古屋地方裁判所で行われました。傍聴には全国各地から、定員を超える117人の原告支援者が集まりました。(齊藤 豊記者)
2013年からの史上最大(平均6・5%、最大10%)の生活保護基準の引き下げ。これに対し全国29都道府県で1000人以上の原告が違憲訴訟に立ち上がっています。その先陣を切り、名古屋地裁では来年1月に結審、4月には判決が言い渡される見込みです。
9月25日と10月10日に行われた第1回、2回の証人尋問に続き、10月24日には初の原告本人5人に対する証人尋問が行われました。また尋問では被告の国側が、原告に尋問する被告代理人に、今回初となる弁護士を立てました。そのため全国の原告弁護団からも、どのような尋問が行われるのだろうかと注目を集めていた中での尋問でした。
外食・貯金、どこに問題
尋問の型式は、初めに原告代理人弁護士が原告に事前調書(原告が生活保護を利用するまでの経緯や現在の生活実態などが記されたもの)の内容を確認する尋問を行い、その後、被告代理人弁護士が原告にその内容の疑問点などを尋問しました。そして、それを交互に繰り返す型式でした。
そのうちの3人の尋問を紹介します。
1人目の原告男性は、派遣の仕事からホームレスになった後、自立更生施設を経て再度働き始めたものの、胃潰瘍(いかいよう)や脳腫瘍(のうしゅよう)にかかり、フルタイム就労が困難となったため生活保護を利用することに。現在の収入はパートの仕事で約7万、年金約2万、生活保護費約3万円とのこと。近年は食費を切り詰め肉や魚はめったに食べない、風呂は週3回の銭湯、夏場は濡れタオルで体を拭くことでしのぎ、新聞もやめたなどの生活状況を原告側尋問で答えました。
それに対し被告代理人からは、(1)収入の内訳のうち、調書では保護費が約4万円となっている(2)食費が外食含め月に約4万円のうち外食費が月2回、計5000円との内容は余裕があるのでは、と尋問しました。
それに対し、原告代理人と原告の問答で、(1)は仕事の収入が月により増減があることによるもの、(2)の回数はテイクアウトのときや、病気で体調不良の際に自炊できないときの回数を入れていなかった(厳密には月4回程度)ことが判明。いずれも実態と大きな差異はないものでした。
次に尋問を受けた原告男性は、障害により12年前にグループホームに入った頃から生活保護を利用することに。お金の管理はグループホームがしていること、月2回の外出にはヘルパーが必要で、ヘルパーの交通費や食費などを払うことがあることなどを原告側尋問で回答。
被告側尋問は、またも外出時の食費について。原告が「回転ずしで約1500円、ラーメンで約1000円」などの内訳を回答。また原告が貯金をしていることについて尋問があり、それには原告が「自分でお金の管理をしておらず詳細な額は不明だがその通りだ」と回答しましたが、まるでそれらがおかしいと言いたいような尋問でした。
最後に尋問を受けた原告女性は、60代半ばまで清掃などの仕事をしていましたが、足に水がたまる病気にかかり仕事ができなくなり保護利用者に。食費は月に約2万円で、1日2食、700円程度で済ませており、コメは1度に2合炊き、それを1週間かけ食べていると原告側尋問で回答。
また、パンは高いので全く買わない、トイレは5回に1回しか流さない、料理は卓上コンロを使っている、保護利用後は一度も新しい服を買っていないことなどを答えました。
対する被告側尋問は、原告が生健会の会員で会の日帰り旅行に行くことがあること、近所付き合いの有無の尋問がありました。
これらの尋問に原告は、旅行には行く、近所付き合いはないことを回答。あまり突っ込みどころがないためか、被告側尋問はそれだけで終わりました。
勝利へ向け各地で共有
閉廷後の報告集会では、原告らから、裁判にかける思いや今後の決意、参加者への謝意が述べられました。
弁護士らからは、「人前で話すことは緊張するし大変だが、原告らは立派だった」「被告側は『余裕があるだろう』という趣旨の尋問だったが、そうではない実態を示した」などの言葉が述べられました。
神奈川県からの参加者は「被告側の弁護士は原告の実態をほじくり返せなかった。今回を参考に地元でも頑張りたい」、三重県や北海道の参加者は「今回のことを地元へ発信していきたい」などの発言がありました。
全生連を代表して参加した副会長の三浦誠一さんは「憲法と国民の人権、『セーフティーネット』を守るための重大な闘いの、全国初の勝利判決へ向け頑張ろう」とあいさつ。熱気あふれた集会となりました。
(2019年11月10日号「守る新聞」) |