介護の未来に希望を取り戻す
長野・あずみの里「業務上過失致死」事件無罪確定
准看護師の山口さんが業務上過失致死罪に問われた長野・あずみの里「業務上過失致死」事件。2013年12月、特別養護老人ホームあずみの里で山口さんがおやつの介助に入り、ドーナツを食べた利用者が突然心肺停止状態になり、1か月後に亡くなりました。東京高裁は7月28日、一審の有罪判決を破棄して無罪判決を言い渡し、8月11日、東京高検が上告せず無罪が確定しました。「事件」の概要と、「特養あずみの里『業務上過失致死事件』裁判で無罪を勝ち取る会」会長で、あずみの生活と健康を守る会会員、小林作榮さん(82)の思いを紹介します。
山口さんは、介護職の手伝いで行ったおやつの配布後に起きた不幸な病死で、業務上過失致死という個人の罪によって起訴されました。司法解剖すらされず、検察は「致死」で14年12月26日に起訴しました。そして長野地裁松本支部は19年3月25日、有罪判決を言い渡しました。
食事は安らぎ
今回の高裁判決は、「ドーナツで窒息することは予見できず、山口さんに形態確認義務はない」とし、過失はなかったことを明らかにしました。さらに「間食を含めて食事は、人の健康や身体活動を維持するためでなく精神的な満足感や安らぎを得るために有用かつ重要であることから、その人の身体的リスク等に応じて幅広く様々な食事を摂取することは人にとって有用かつ必要である」としました。
介護現場に喜び
さらには施設での食事提供が利用者の人間らしく生きることを支えるかけがえのない意義を持つことまで言及したことは、1審判決により委縮した全国の介護現場と関係者には安心と希望を、利用者には生活の喜びを取り戻すものとなります。
8月12日の支援者と弁護団の共同声明では「私たちは『この裁判には介護の未来がかかっている』と訴えてきた。まさに『介護の未来』を守った判決であり、司法の良心が示されたものとして歓迎する」と語っています。
司法包囲、国民の勝利
「無罪を勝ち取る会」会長
小林 作榮さん
山口さん、6年半の被告人からの解放おめでとう。山口さんが頑張り抜いたことに敬意を表します。
全国からの73万筆を超す支援者の熱い願いが、司法を包囲した国民の勝利です。介護の萎縮を開放し、おやつの楽しみを再確認した判決を勝ち取ることができました。
夢のような無罪判決でした。山口さんはどんなに大変だったか。毎日毎日、被告人の名を背負い込んだ生活。今、解放されもう自由人です。
弁護団の強力な論戦、全国のみなさんの署名、タペストリーなどに支えられてこの日を迎えることができました。「特養あずみの里『業務上過失致死事件』裁判で無罪を勝ち取る会」事務局は48回の会合を開き、節々で無罪を訴える集会、裁判の報告会を企画し、パンフレットを発行、裁判のたびに経過報告・記者会見に取り組んできました。
1つ目の問題点は、山口さんは一番大変な自分では食べられない介助の必要な人のお手伝いに加わったのです。背中合わせの方がドーナツを食べぐったりし、意識を失った。そばにいた山口さんを犯罪人扱いする、これではだれでも犯罪者になり得ます。
2つ目は「窒息」です。警察・検察・裁判所も窒息と言う。弁護団は脳疾患か心疾患を主張。弁護団の論陣が採用されないことのくやしさがありました。学習会などでドーナツを参加者に食べてもらい、のどに詰まることはない体験をしてもらいました。
3つ目は、訴因変更です。検察は都合が悪くなれば、訴因を変更できる権限を持っていることを初めて知りました。訴因変更を認めた長野地裁の責任も問われなければなりません。
(2020年9月6日号「守る新聞」) |