あまりにも冷たい元に戻して
原告5人が本人尋問
北海道 新・人間裁判
北海道の生活保護基準引き下げ違憲訴訟(「新・人間裁判」)の第23回口頭弁論(原告本人尋問)が8月26日、札幌地方裁判所で行われました。今年6月の愛知県での同裁判の不当判決に屈さず、「生きる権利」を取り戻したい・取り戻そうと、出廷した原告らは切実な生活被害の実態を訴えました。現地からの報告です。
季節外れの暑さとなったこの日、札幌地裁前に札幌市近郊の生活と健康を守る会や関係団体から約40人が午前・午後と集まり、本人尋問を行う原告を激励しました。裁判は高齢者夫婦・単身者・多人数世帯・障害者世帯を代表した5人が本人尋問に臨みました。
新型コロナウイルスの影響で定員80人の法廷は30人に限定され、すぐに傍聴席は満席に。最初に尋問を受けた後藤昭治原告団長(82)は、「闘ってきたこの6年間で何度も保護費が引き下げられた。憲法25条で守られている最低限度の生活を物価が下がったという理由だけで引き下げるのか。あまりにも冷たい。行きたい所にも行けない。こんな思いを子、孫、ひ孫にはさせたくない。どうか元に戻してほしい」と力を込めて裁判官に訴えました。
涙ながら伝える
2番目の鳴海真樹子さん(47)は、「持病のため自炊が難しく、他人より食費がかかる。食料品が値上がりしてやり繰りが難しく、親のお墓に行きたくても、遠方で交通費を捻出(ねんしゅつ)できず行けない」と苦しい思いを涙ながらに伝えました。
3番目の後藤正澄さん(59)は、事故で右足と右肘にボルトが入っており、思うように働くことができず、脳梗塞(のうこうそく)で倒れたこともありますが、今も新聞配達を頑張り食費や光熱費を節約し生活していることを、言葉に詰まりながらも伝えました。
希望が持てない
4番目の吉田弦一さん(72)は、妻と子との3人世帯。「生活保護はありがたい制度。でも自分も高齢になってきて子どものことが心配。今の保護費だと我慢しなければいけないことが多いので、明日への希望が持てない」と将来への不安を訴えました。
最後の高坂千秋さん(53)は、真面目に働いてきましたが過重労働でうつ病を発症し、生活保護を利用。「壊れて刃がむき出しになったシェーバーを半年間使い続け、その間に少しずつ貯めたお金でやっと買い替えることができた。保護費が元の金額に戻ったら、缶ビール1本、大好きなイカ刺しを食べて、ささやかな幸せを感じたい」と訴えました。
終了後、報告集会を行い、60人余りの参加者で「11月30日の結審を成功させ、必ず裁判に勝利しよう」と決意を固め合いました。
(石橋妙美通信員)
励ます会兼総会開催
本人尋問は重要
保護制度を良くする会
北海道の生活保護制度を良くする会は8月20日、「本人尋問原告と弁護団を励ます決起集会」兼第8回総会を開催し、162人が参加しました。
集会では初めに、大賀浩一共同代表があいさつし、「本人尋問は裁判の中でも極めて重要」と具体的な裁判の事例を紹介しながら強調しました。
次に、「新・人間裁判」弁護団事務局長の渡辺達生弁護士の講演がありました。渡辺弁護士は「この訴訟は全国29か所で1000人を超える原告が立ち上がっている極めて重要な裁判だ」と前置きし、「6月25日に最初の判決が名古屋地裁で出されたが、原告の請求を棄却する不当判決だった」と批判しました。
続けて、今回の裁判が「国による670億円(デフレ調整580億円+ゆがみ調整90億円)もの生活扶助基準の引き下げが、厚生労働大臣の裁量権の逸脱・乱用かどうかを争う訴訟であること」を述べ、デフレ調整は「生活保護基準部会の意見を聞かずに採用したもの」、ゆがみ調整は「所得下位の10%階層(第1・十分位)から生活保護世帯を除外せずに比較したもの」と厳しく批判。名古屋地裁判決は「これらをきちんと検討することを放棄し、国の主張を丸のみした不当判決だ」と糾弾しました。
そして、名古屋の不当判決を受け、私たちの任務は何かと問い、一つは「厚労大臣の裁量権をいかに抑えることができるか」、二つは「原告の被害の実態を明らかにすること」と提起し、8月26日の原告本人尋問の重要性を説きました。
その後、原告と弁護士がそれぞれ決意を表明。そして原告全員に心のこもった色紙が手渡されました。
(三浦誠一通信員)
(2020年9月13日号「守る新聞」) |